COM計画研究所は、道路から広場、建築、そして自然と文化等を一体として捉え、生活環境として、住民の手によるまちづくりとして育むことをめざしています。

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2018.2.9

【コラム6】「事例」はマニュアルならず―志の高さと行動の自由さを身につけたい

カテゴリー:COMからのお知らせ, まちづくりフロンティア

それほど変わったことをやり出すのではない。
しかし、行政や市民にとっては前例のないこと、これまでの「常識」とは違うことに立ち入ろうとすることではある。そこで求められるのは、一歩を踏み出す勇気、多少異質な動きを認める包容力だろう。
その時に「先進事例」が説得力をもつとされることが多い。「よそでやってることだからやっても良い」という流儀だ。
でも、そのために本書があるのではないことを知っておいてほしい。

まちは場所、その背景、時代、人、そして何より、どんなまちとして生きていくのかという状況がそれぞれ違う。だから、まちづくりに一般解やマニュアルを求めるのは無理がある。
第一まちづくりは「事例」に頼ってやるものではないだろう。ただ、よそのまちを多くみることで目が肥えてきたり、理念やヒントを掴むことはできる。何より、やれば出来るんだという英気を養うことができる。

滋賀県・長浜の人たちは、世界的なガラス産地のチェコやヴェネツィアでガラスの魅力、人を引きつける力を実感した。
大分県・湯布院の草創期では、自分たちが目標とする温泉観光地像を求めて全国をさまよい、ドイツの田舎に辿り着き、オンリーワンを価値観とする保養地に共感を覚えたという。

そんな目の付けどころから教えられることも多いが、むしろ大切なのはその先の展開だろう。
長浜では、勝算の有無を議論することよりも実行に移した。さっそく歴史建築をガラス館にリニューアルし、本場のガラス工芸を買い集めて展示、販売。ガラス工房をつくってオリジナル作品を生み出す体制も整えていった。
湯布院では、辻馬車を走らせ、映画祭や音楽祭を開催してまちの空気を動かした。旅館の食事からお土産の小物に至るまでを見直し、地元の農村や山村と連携し、よそにはない本物の素材をベースに食事や商品、サービスの転換を進めた。

長浜で見習うべきは、独走とも言える市民の動きが先行し、それを行政は許容し支援したこと。
湯布院ではトップクラスの旅館が連携し、農家や大都市とも繋がっていったこと。
新鮮で独創性のある発意が、出発点から多数派を占めることはまずない。むしろ少数の市民の間からのみ生まれる。
既成の行政や商工団体、組織の枠では出来なかったから地域は衰退し、新しいまちづくりが求められていることを思えば当然ともいえる。そして、彼ら「はみ出しグループ」を地域が認め、地域の力にしていこうとするプロセスに最大の見所があると思う。
それを支えるのは、まちづくりに立ち向かう明確で強い理念である。
理念なき地域は流され、吹きだまりに向かう時代である。

 

長浜再生のシンボルとなっている黒壁スクエア

長浜再生のシンボルとなっている黒壁スクエア

日本全国、世界のガラス作品が集まる「黒壁ガラス館」 ※黒壁HPより

日本全国、世界のガラス作品が集まる「黒壁ガラス館」
※黒壁HPより

由布岳 麓に広がる田園に抱かれて由布院のまちは育まれている

由布岳
麓に広がる田園に抱かれて由布院のまちは育まれている

深い緑の中に静かに招き入る「亀の井別荘」

深い緑の中に静かに招き入る「亀の井別荘」

亀の別荘敷地内の「湯の岳庵」 宿泊客に限らず誰もが楽しめる一角

亀の別荘敷地内の「湯の岳庵」
宿泊客に限らず誰もが楽しめる一角

 
 
※さらに詳しい内容は、全国各地のまちづくりのフロンティアたちと当社代表高田の対談をまとめた
まちづくりフロンティア』(オール関西 2005年)をぜひご覧下さい。

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